全日本ピアノコンクール

作間美佐さん

アマチュアO56の部で最高位受賞を果たした作間美佐さん。オンラインの画面越しでも明るく華やかな笑顔が印象的だった作間さんは、受賞の喜びを「素直に大変嬉しい」と語り、支えてくれた先生や家族への感謝を語ってくれました。


作間美佐さん


作間さんとピアノの出会いは3歳の頃。近所のピアノ教室に通う姉の後を、三輪車を漕いで追いかけていたといいます。「毎回毎回、姉のレッスンについていく私を見て、先生が母に『この子もやらせてみたら?』と声をかけてくださったのが始まりでした」と、懐かしそうに目を細めます。こうして始まったピアノの道は15歳まで続きましたが、その後、一度は鍵盤から離れることとなりました。

仲良しのお姉さまとベネチアへ旅行へ行った際の様子


再びピアノと真剣に向き合うようになったのは、わずか3年前のことです。きっかけとなったのは、作間さんにとって最も身近な存在であり、現在はピアノの師でもあるお姉さまの存在でした。プロのピアニストとして活動し、大学でも教鞭を執るお姉さまが、さらに自分を高めるためにコンクールに挑戦し続ける姿。その背中を見ていた作間さんは、「羨ましいな、楽しそうだな」という純粋な憧れを抱いたのだそうです。子どもの頃から何でもお姉さまの真似をしたかったという作間さんにとって、その挑戦は自然な流れでもありました。

「ブランクは相当なものでした」と笑う作間さんですが、再開にあたっては、ハノンのスケールやチェルニー30番といった基礎から、初心に戻った気持ちで取り組んだと言います。そして現在師事している黒田美絵先生こそが、そのお姉さまご本人。広島と兵庫という離れた場所に住みながら、帰省時の対面レッスンや、時にはリモートでの指導、音源を送ってのアドバイスなど、独自の信頼関係の中で研鑽を積んできました。「姉であり、師匠でもある存在」との絆は、作間さんにとって何よりの支えとなっています。

イタリアのピアノ練習室にて


作間さんは、自らを「練習はあまり好きではない」と謙遜気味に語りますが、だからこそコンクールという目標を大切にしています。大人になり、日々の生活の中で練習時間を確保するのは容易ではありません。それでも、エントリーして期限が決まれば、そこに向けて集中力を高めることができます。「期限があるからこそ、忙しい中でも練習できる。目標がないと、どうしてもだらだらしてしまいますから」という言葉には、多くのアマチュア演奏家が共感するリアリティがあります。

今回の演奏曲目であるメンデルスゾーンの無言歌集より『デュエット』は、作間さんが2年越しで取り組んできた、心から愛する一曲です。実は、昨年のコンクールでも同じ曲を演奏していました。「どうしてもミスタッチが嫌で、納得がいかなかった」と語る彼女に対し、黒田先生は「もっと上手くなりたい、大好きな曲なら、何度挑戦してもいい」と背中を押してくれたそうです。

ストリートピアノでリハーサル


普段の練習では、作間さんならではの独特のアプローチ方法があります。曲の構造を理解するために、実際にそれぞれの声部を自分で歌いながら片手ずつ練習するという、徹底したアプローチをとっているそう。特にバッハや今回のメンデルスゾーンのように、複数の声部が絡み合う曲において、この「歌いながらの練習」は作間さんの演奏に深い説得力を与えています。

しかし、その表現を支える技術面では、人知れず苦労を重ねてきました。作間さんの手は小さく、指には結節による変形もあります。「和音を掴むのが難しく、どうしても音が濁ったり、ミスタッチが出てしまったりする。それが何より嫌でした」と吐露します。その物理的な制約を克服するために、作間さんが選んだのは、気の遠くなるような「片手練習」の繰り返しでした。「音を外したくない、ドはドであってほしい。その思いが強いんです」という言葉に、音楽に対する誠実さが滲みます。

また、作間さんには独自の「問い」がありました。それは「打楽器であるピアノで、なぜプロのピアニストはあんなにも美しいレガートを奏でられるのか」という謎です。3年前に再び本格的に弾き始めた時、かつては気にも留めていなかった「音の繋がり」の美しさに改めて驚かされたと言います。「指で打鍵する楽器なのに、なぜ音が歌うように繋がるのか。それを追求したいと思ったのが、実は再開した一番の理由かもしれません」。

多忙な日々の中、練習は週に2〜3回、1回につき1〜2時間という限られたものです。夜遅くに家事を終え、僅かな時間の合間を縫って集中して鍵盤に向かいます。「今日はこの1段だけ」と決め、弾けない箇所を取り出して30分間練習する、といったような短時間集中型の練習をコツコツと続けてきました。

本選のステージでは、緊張することなく「ウキウキとした気持ちで演奏できた」と振り返ります。審査員の先生方からも「フレーズが長く取れている」「歌っているように聞こえた」と、作間さんが最も大切にしているポイントを高く評価する声が寄せられました。一方で、基礎的な粒立ちや声部の出し方など、的確な指摘も真摯に受け止めているそう。「先生(姉)から言われていることと同じことが書かれていて、本当におっしゃる通りです、という気持ちでした」と、自分の現在地を冷静に見つめる強さも持ち合わせています。

さらに、作間さんは「ホールによって、ピアノによって、音が全く違うこと」にも驚きと喜びを感じています。スタインウェイのような銘器が持つ響きの豊かさに触れ、そのピアノと瞬時に親しくなることの難しさを痛感しながらも、その経験自体を楽しんでいる様子が伝わってきます。「もっといろんなホールで、いろんなピアノと出会いたい。それができるのもコンクールの醍醐味ですね」と語ります。

休日には愛犬とのお散歩も楽しみのひとつ


作間さんの人生観は、非常に明快で清々しいものです。「60歳までは家族や周りのために。60歳を過ぎたら、神様からいただいたご褒美の人生」と決め、これからの時間は自分が本当に心惹かれることに費やすと宣言しています。ピアノを弾くこと、大好きな歌舞伎を見に行くこと、オペラやコンサートに足を運び、生の音楽の美しさに触れること。そのすべてが、彼女の音楽を豊かに彩る糧となっています。

今後の夢について尋ねると、「指がいつまで動くか、いつまで元気でいられるかは分かりませんが、命ある限りは少しずつ音楽をやっていきたいと思います。ロマン派の大曲にいつか挑戦したいみたい気持ちもありますけどね」と照れ笑い。難しい大曲への憧れは持ちつつも、「まずは今弾ける曲を、美しく、澄んだ音で奏でることを追求していきたい」と語ってくれました。

これからも、お姉さまとの絆を力に変え、作間さんの人生を美しい音楽で満たしていかれることでしょう。

全国大会での作間美佐さんの演奏はこちら。

2025年度インタビュー アマチュアO56
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